日本でPDF/Xが登場したのは、Acrobat 6.0 Proのリリース以降である。Distiller 6.0にPDF/Xを作成する規格タブが追加されたことで、DistillerでPDF/Xが作成可能になった。Acrobat 6.0 ProではPDF/X-3も作成可能だったが、推奨されたものはPDF/X-1aである。
Acrobat 6.0 Proの日本語版がリリースされたは2003年5月であり、すでにPDF/X-1aはISOで認可されていて、
PDF/X-1a:2001
となっている。Acrobat 6.0 Proのプリフライトでも「PDF/X準拠レベル」で「PDF/X-1a:2001」をチェックしている。ただし、プリフライトする内容は、Acrobat 7.0 Proは不明である。「PDF/X-1a:2001準拠」のプロファイルにはカスタムチェックが含まれていないからだ。
Acrobat 6.0 Proにある「PDF/X-1a」のプロファイルの構成。Acrobat 7.0 Pro以降はプロファイルの詳細をすべて見ることはできない。Acrobat 9 Proでは「PDF/X-1aに変換」では、変換に使用するフィックスアップを確認することができる。
PDF/Xは電子送稿のための世界標準の規格として仕様が定められた。すべての印刷用ドキュメントの電子送稿を標準化するためのものだが、とっかかりは必ずしもそうとはいえない。PDF/X-1aの規格化を推進した団体が四つある。
・ Digital Distribution of Advertising for Publication
・ News Paper Association of America
・ Committee for Graphic Arts Technical Standards
・ TW130 WG2 高精細画像符号化委員会
このうち、上の二つのをよく見て頂きたい。最初にリストされているのは、広告の規格を決める団体である。次にある団体は新聞社の団体である。新聞社も広告データの入稿には、詳細なマニュアルがあり、新聞社がPDFに求めたのは、紙面広告の規格化だろうと考えられる。
雑誌にしても新聞にしても広告の制作者は特定できない。しかしいくつもの広告を同じ印刷機に付け合わせて印刷しなければならない。入稿データを規格化して同等の品質を保たなければ、入稿した広告データは使い物にならない。
PDF入稿での機運が高まるとともに、広告データの標準化の必要性が認識された。それが「PDF/X」の始まりと考えていいのではないか。広告こそがもっもと入稿データの標準化を要求するものなのである。
日本にPDF/Xが紹介されたとき、PDF/Xの事例としてTIME誌のビジネスウィークが取り上げられたビジネスウィークがPDF/Xを採用した背景には、PDF/Xによる広告の標準化を図りたいという思惑があったに違いない。PDFではなく「PDF/X」という別の規格にすることで、PDFの標準化は明確になるからだ。
日本でも、雑誌社や新聞社では広告データには、マニュアルが用意されているのが普通だ。たいていはIllustratorで作成されていて、フォントはアウトライン化されているか、使用フォントは限定されている。アプリケーションのバージョンにも縛りがある。
雑誌や新聞がちがっても、同じマニュアルによって標準化できれば、制作するデザイナーやオペレータは雑誌社や新聞社のローカルルールを気にすることがなくなるというメリットがある。雑誌社や新聞社も社内専用のマニュアルを作成する手間が省ける。完全な標準化は無理でも、ローカルルールは最低限ですますことが可能だ。そこにもPDF/X本来の価値がある。
商業印刷物においても、PDF/X化するメリットはある。なんといってもアメリカは広い。ニューヨークで配布する印刷物でも、ロスやシスコで制作したりすることもあるだろう。また、制作は香港やシンガポールというケースもあるし、制作を日本しても、印刷はオーストラリアやシンガポール、あるいは中国というケースもあるだろう。そういう場合も、印刷用に標準化した規格を策定しておくと、トラブルを少なくすることができるのである。
PDF/X-1aは、ヨーロッパで練り上げられた詳細な仕様をベースに、アメリカでの広告仕様を標準化することから始まったと考えてよい。Acrobat 6.0 Proがリリースされたときに配布されたAdobeの資料にもPDF/X-1aは
新聞・雑誌広告に限定された仕様
とはっきりと書かれている。広告の標準化が、PDF/X-1aの始まりなのである。
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