PDF/X-3はヨーロッパからのカウンターパンチであった。アメリカだけでなく、ヨーロッパでも印刷用PDFを標準化するというアイディアには賛成だった。ただし、PDF/X-1をそのまま受けいることはできない、つまり総論賛成、各論反対の立場だった。
そこでヨーロッパの関係団体がPDF/X-1をベースにしつつも、新しいPDF/Xの規格を提示することになった。スイスとドイツの印刷協会のPDF専門家に規格化を依頼した。それが「PDF/X-3」である。
Acrobat 6.0 Proの「PDF/X-3」のPDF/Xパネル。出力インテントで「Euroscale Caoted v2」が指定されている。ここからもヨーロッパ生まれの仕様であることを見て取れる。『pdf + print 2.0』には記載されていないが、出力インテントを付加するという仕様もPDF/X-3からと考えられる。
PDF/X-3は、PDF/X-1と違って分版されたものである必要はなかったが、
カラーマネージメント対応
電子署名
などを機能を追加した。カラーマネージメントに対応するというのは、キャリブレーションカラーを扱えるようにすることである。ICCプロファイルが埋め込まれたカラーであればRGBカラーでも使えるようにする。Labカラーは「PDF 1.1」から対応しているが、ICCプロファイルに対応したPDFのバージョンは「PDF 1.3」であり、PDFの主な仕様も次のように変更された。
PDFバージョン 1.3
フォント埋め込み 必要
OPI 不可
カラー CMYKと特色、ICC/Lab
規格化を依頼されたPDF専門家の一人は、ドイツのcallas社の社員。callas社はAcrobat 7.0 Pro以降にAcrobatに搭載されたプリフライト機能をライセンスしてい
る会社である。
Ac
robat 7.0 Proの「Acrobatプラグインについて」を開く。プリフライトプラグインの版権がcallas softwareにあることがわかる。
PDF/X-3を作成するにあたって、二人のPDF専門家は印刷用に最適化するために詳細な仕様を指定した。画像は高解像度画像を埋め込むものとし、トラッピング情報もある場合は埋め込むようにした。トリムボックスとブリードボックスも埋め込むことにした。PDF/X-1ではこれらについて記載がないので、曖昧な扱いになっていたに違いない。
さらに、禁止する項目として
トランスファー関数の保存
LZW関数
PostScriptオペレータの埋め込み
注釈
リンクやアクション
セキュリティ
透明効果
を指定した。トランスファー関数を画像内に保持すると、モニタでの画像と出力結果が異なる。LEWはTIFFで保存時に指定できるが、特許のからみで出力によっては圧縮を解凍できないことがある(IllustratorなどにLZWのTIFFを貼り込んでも、PDF書き出しするとLZWは解除されている)。
PostScriptオペレータはPDF内にPostScriptを埋め込むもので、これもモニタ表示と出力結果が一致しない原因となる。注釈、リンクやアクションは印刷用では不要で、セキュリティは適用されていると出力できない。透明効果はPDF 1.3では指定できないが、オリジナルのドキュメントにある場合は、分割・統合するという意味だろう。
PDF/X-3になって、PDF/Xはより具体的な仕様に変貌したと考えて良い。上記の禁止項目は、DistillerでPDF/Xを作成した場合、すべて削除されるか変換されるようになっている。PDF/X-3の登場によって、PDF/X-1も見直しが行われた。PDF/X-3をベースにした、アメリカ版の新しいPDF/Xが規格化される。それが「PDF/X-1a」である。
|