PDF/Xはどのようにして生まれたのだろうか。PDF/Xは、Acrobatを開発したAdobeが決めた規格ではない。Acrobatユーザーが自発的に規格化を目指したものが、PDF/Xである。最初に策定されたPDF/Xが、後に「PDF/X-1」と呼ばれるようになった。
PDF/Xの「X」はエクスチェンジである。そのまま直訳すると「交換」という意味になってしまうが、PDFを印刷目的として利用したときのガイドラインを規定したものである。印刷用データとしてPDFをやり取り(交換)する場合、まったく同等の出力と印刷を目的に決められたものである。
PDF/X-1の標準化を率先したのは、CGATS(Committee for Graphic Arts Technical Standards)だと、『pdf + print 2.0』に書かれている【pdf + print 2.0/Bernd Zipper著/工学社/34ページ】。その提案に相乗りしたのが、ANSI(American National Standards Institute、米国規格協会)だった。時期的なことを明示した資料はないが、Acrobat 3.0のリリースのあとくらい(1997年頃?)から、PDF/Xの標準化の議論が始まったようだ。
アメリカでの黎明期の頃のPDFやPDF/Xについて解説されている。当時は日本語されていなかったプラグインも、いまでは実用的に進化し、日本語環境でも使えるようになった。
PDFは印刷では必要しないフォームや注釈、リンク、マルチメディア機能を持っている。そういう印刷では不要な要素を排除したPDFを規格化すれば、印刷用データでの送稿は極めて簡便になる。PDF以前にはTIFF ITでの標準化の構想もあったが、広く支持されるには至らなかった。
PDF/X-1の主な仕様は
PDFバージョン 1.2
フォント埋め込み 必要
OPI 可
カラー CMYKと特色
となっている。1997年ころには、CTP出力の普及が視野に入りつつあり、CTPでのフィルムレス出力を前提にすると、印刷用PDFの標準化の動きが盛り上がりつつあった。
ただし、当時の考えはフイルムの代替としてPDFを想定しており、前出の『pdf + print 2.0』にはPDF/X-1の解説として
画像は埋め込むことはできたが、
それは分版されたものでなければならず
特別なソフトウェアでなければ扱えなかった。
【pdf + print 2.0/Bernd Zipper著/工学社/35ページ】
と解説されている。CMYKカラーのPDFに画像を貼り込む場合、分版して入稿するというのは、1bit-TIFFの方法論に通じるものがある。1bit-TIFFではデータは重くなるが、PDFであれば分版してもファイルサイズは軽くてすむ。データの再現性を優先した場合、すでに分版されているほうがよい。CMYKの各版の網点を固定したものにすることで安全性を図るのである。
また、PDF/X-1に対してフォントを埋め込まなくてもかまわないとする「PDF/X-2」も登場した。PDF/X-2についてはほとんど資料はないが、PDF/X-1と比較して大きく異なるのはフォントを埋め込まなくてもいいことくらいのようである。
しかし、利便性に欠け、PDFのメリットを活用してないとして、PDF/Xに対して本格的な反旗ののろしが上がった。新しいPDF/Xの規格がヨーロッパで立ち上げられたのである。それが「PDF/X-3」であった。
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