このところPDF/Xはどうなっているのかと思って少し考えてみた。PDF/Xが必要かどうかというと、「ケースバイケースじゃない」と答えるしかないが、PDFを印刷用に出力するという点では、十分条件ではあっても必要条件ではない。クライアントが「PDF/Xで入稿して」といえば、PDF/Xにするしかないだろう。
PDFで出力するだけであれば、PDF/Xにする必要はない。PDF入稿をPDF/Xに限るメリットがあるとすれば、PDF/X作成の側にそれなりのスキルが要求されることだろう。印刷用PDF作成のノウハウを知っているか知っていないのか、あるいは、AcrobatをやIllustratorやInDesignの新しいバージョンを持っているのかという点で「足きり」になるということか。
印刷会社が業者同士でやり取りする場合は、PDF/Xを指定しておけば、データの信頼性は高くなる。PDF/Xを作成する知識とノウハウを持っているということになるからだ。もっとも、信頼性だけを考えれば「データ送稿は1-bit TIFFでっせ」という声も聞こえてきそうである。
ただし、ネット入稿などで広く印刷用データを受注したい場合は、PDF/Xを指定することは、命取りになるかも知れない。受注の間口が狭くなるので、出力はスムーズに行えても、売り上げには貢献しない。むしろ、PDF/X入稿が顧客のメリットになるわけではないので、閑古鳥が鳴くデメリットの方が大きい。
PDF/Xの敷居は、Acrobatのリリースともに高くなる。今知られているAdobeアプリに搭載されているPDF/Xのバージョンを数えてみたら、なんと八種類もあった。Acrobat 9 Proのリリースで新しいバージョンが追加されたからである。
PDF/X-1
PDF/X-1a:2001(Acrobat 4.0互換)
PDF/X-1a:2003(Acrobat 5.0互換)
PDF/X-2
PDF/X-3:2002(Acrobat 4.0互換)
PDF/X-3:2003(Acrobat 5.0互換)
PDF/X-4
PDF/X-5
Distillerで作成できるPDF/Xと、Acrobat 9 Proのプリフライトで変換できるPDF/Xの種類は同じではない。Distillerでは透明に対応した「PDF/X-4」以降は作成できない。また、「PDF/X-1」「PDF/X-2」は過去のバージョンで、事実上使われていない。
実は、PDF/X-4とPDF/X-5には、さらにサブバージョンがあって、厳密にはもう少しPDF/Xの種類は多い。これらPDF/Xの仕様の違いをすべて把握することは、ほぼ不可能である。まあでも当分は「p」とか「g」は無視してもいいだろう。
「PDF/X-4」以降は、それ以前のバージョンとは少し性格が異なるものだ(「PDF/X-1a:2003」や「PDF/X-3:2003」もそうかも)。「PDF/X-3」までは、ユーザーの意見を反映して規格化されたものだが、「PDF/X-4」や「PDF/X-5」はAdobeのAPPEのRIPにあわせて作成されたものといっても、言い過ぎではないだろう。
「PDF/X-4」というより、「Adobe PDF/X-4」という方が正確まではないか。少なくとも、そういう風に理解する方がわかりやすい。念のためにいっておくと、それを非難する気はない。「Heidelberg PDF/X」とか「Agfa PDF/X」とかあっても、いいかもしれないしね。ハイデルベルグやアグファのRIPのコアはAdobe製なので、「Harlequin PDF/X」だったら可能性はあるかも。
さて、実際に日本ではPDF/Xといえば、「PDF/X-1a:2001」のことである。将来は別にして、現在のところは「PDF/X-1a:2001」だけ理解していれば、まず問題ない。フォントは埋め込みかアウトライン化、透明、OPIはなし、カラーはデバイスCMYKとデバイスグレーのみなのでわかりやすい。普通に印刷用のドキュメントを作成していれば、「PDF/X-1a:2001」にするのは難しくない。
というわけで、PDF/Xを覚えるのであれば、「PDF/X-1a:2001」を覚えようといいたいが、透明を扱えるRIPも増えてきて、「PDF/X-4」に食指が動くユーザーもいるかもしれない。まあその場合は、無理してPDF/X-4にしなくても、透明を含んだままの普通のPDFでいいと思うけどね。
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