■0-6 デジタル営業マンのすすめ
印刷の営業マンに求められるものは、社会一般の常識は別として、いままで版下の知識、製版の知識、印刷の知識、加工の知識といった業務に関わる専門的な知識が必要でした。無論いまでも必要です。しかしこれらの知識は他に専門とする人が社内もしくは社外におり、エキスパートでなくとも十分でした。発注者よりよく知っていればよかったのです。それも長年印刷業界にいれば身に付くことばかりです。だから営業の役目は受注だ、というとそれだけではありません。印刷営業は単なる物売りではないのです。印刷の営業マンは販売だけでなく、実は生産にも携わっているのです。
普通営業マンが印刷物の色校正までを担当します。そうすると営業マンによって印刷物の品質は左右されてしまうのです。実務に明るいベテランの営業マンが担当すれば、印刷物の用途やデザイナーの意図をよく理解し、カラーの分解時に適切な指示が可能ですが、それを汲み取れない営業マンが担当すると、意図しない仕上がりとなってしまうのです。そうすると優れた営業マンを判別するには印刷がどのくらいわかっているのかが重要となります。営業として交渉力が必要であれば、コーディネイトする能力も、企画提案力も必要でしょう。しかし最終的には印刷物にするわけですから、印刷の知識が十全でなければ、本当の信頼は得ることができないのではないでしょうか。
出稿がデジタル化すれば、同然印刷営業はデジタルに知悉しなくてはなりません。そうしなくては顧客に信頼されることはありません。営業マンがよくわからなくても社内にDTPをバックアップする体制が整っているから大丈夫だ、という意見もあるでしょう。しかし、それでも不十分なのです。
なぜなら、印刷物の大半は端物といわれる少ロットで売上の少ないものだからです。名刺やハガキ、単色刷りのリーフレット、伝票類などのが受注件数からいえばほとんどです。パレートの法則※からいうとあなたの会社の売上の下位20%で、受注点数の80%を占めています。商売として旨みのある受注は、売上の上位20%の受注数で、売上金額の80%を占めるというのが一般的な受注内容です。
印刷でも一部に特化した場合は、少し違うかも知れませんが、端物の仕事を外すわけにはいかないのです。端物の受注があってこそ、その中の一部分に大口の受注があるのであり、新規の受注も名刺などの端物から始まるのです。総合印刷業を目指すのであるかぎり、印刷に関わるものもそうでないものも、例え自社に設備がなく、価格競争力が低くても全てを受注し、顧客内でのシェアを高めることが利益の向上に繋がってゆくのです。
売上の上位20%の部分は会社がバックアップしても採算のとれる大口の受注部分でしょうが、それ以外の端物の受注は多くの人の手をかけると、伝票上は利益がでていても、その利益額から動いた人や時間を考慮すれば、実質的には赤字になります。これらは営業マンひとりで対処すべきものなのです。またDTPの必要なスキルを身に付ければ、確実に対処できる筈のものです。
MacintoshのDTPはむしろ、端物の方が向いています。ただ端物は印画紙や単色のフィルム出力でも間に合うので、顧客やデザイナーが出力センター等で出力したものを受け取り、印刷することも可能です。しかしこれではデジタル化は一向に進まず、そのメリットを享受することは不可能です。端物のデジタル入稿もできないで、どうしてカラーや頁もののデジタル入稿ができるというのでしょうか。
※パレートの法則
個人個人の持つ富は均等には分布せず、二割の人で富の七割五分を占めるとするもの。イタリアの経済学者が大正の初めに発表した法則です。
●パレートの法則による受注と売上金額の関係
受注件数を売上金額順に並べると
※上位の20%の受注で、売上金額にしての約80%を占める。一件あたりの売上金額の少ない下位の80%の受注金額は売上金額の20%にしかならない。しかしこの売上金額の少ない受注をカットすると上位の受注も少なくなる。
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