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昨年の年頭(1998年)に、西日本DTPエキスパートクラブの会長(当時)であった岸本正治さんから、西日本DTPエキスパートクラブでセミナーをして欲しいという依頼があった。
セミナーの内容は任されていたので、どのような内容にしようかといろいろ考えた。というのは、セミナーに来る人はというのは、当然JAGATのDTPエキスパートに合格した人たちばかりだから、普通にDTP出力をテーマに話をしても面白くないのではないかと、と言うことだった。もちろんそういう話の方が私の方も楽には違いなのだが、釈迦に説法にならないとも限らないから。別のテーマにしようと思ったのである。
私が話をするとしたら、DTP以外の側面は、営業マンという部分であって、これを梃子にお話しをしたいと思ったのである。というわけで「デジタルで開くビジネス」というタイトルを思いつき、デジタルによってビジネスがどのように変わっていくのかを考え見ることにした。
そこで何を主軸に据えようかと考えた。デジタル、あるいはコンピュータという業界でもっとも必要とする考え方は何だろうかと考えると、やはり「デファクト・スタンダード」という言葉ではないかという結論に達したのである。
その少し前にNHKで相田洋ディレクターの「新・電子立国」というシリーズが放映されていたが、それが大変面白く、全部ではないが、出版された本も読み、やはり「デファクト・スタンダード」をテーマにするしかないと強く思ったのである。
最初にパーソナル・コンピュータでスタンダードになったApple IIとビジカルク、そしてそれを覆したIBM-PCとロータス-123、そしてそれに乗っかったMS-DOSとその後を鮮やかに引き継いだWindowsというOS、またMicrosoftとNetscapeのWebブラウザーの覇権争いと、全て「デファクト・スタンダード」になるかならないかが、もっとも大きなポイントではないか。
近年のコンピュータの歴史は、ハードウェアにしてもソフトウェアにしても、誰がデファクト・スタンダードを勝ち取るのかということがもっとも重要なことであって、デファクト・スタンダードをなる、つまり一番になる、ということで、ビジネスの広がりは大きく変わってしまう。以前は柳の下にどじょうが何匹もいたが、デジタル化が進むにつれて、一番と二番とでは儲けという点ではあまりに大きな差かできてしまう。雲泥の差というやつである。
とすると私たちのような印刷業の延長上にいるDTPもデジタル化する中で、やはり「デファクト・スタンダード」というコンセプトを理解し、それをビジネスの戦略に組み込んでいかなければならないはずではないか。というより「デファクト・スタンダード」になるという戦略の中で、自社(あるいは自分)のコアとなるものを最大限に生かす戦術を組み立てていく必要がある。
西日本DTPエキスパートクラブでのお話しは、1時間ほどで、事前にいろいろ考えたうえで話したつもりだが、それでも十分に整理できたどうかは、いま思い返してみるとはなばだ怪しい。
そこでその後もこのテーマについては、いくつかの本を読み、思考を凝らし、突き詰めてみることにした。残念ながら、いまだに正々堂々と自信をもって、皆さんに伝えることができるかどうかは一抹の不安がないわけではないが、考えていても仕方がないので、文章にしていこうと思うのである。書いてみたら考えが少し変わったりするかも知れないが、書いてみないとわからないので、このメールマガジンで連載することにした。
メールマガジンを続けていくためには、連載できるものがあったほうがいいので、ある意味ではおあつらえ向きかも知れない、と別の私が打算しているが、まま、こういうものは機会がないと書けるものではないかもしれない。
内容的には「デファクト・スタンダード」をなんたるのかをよく理解している人たちには、当たり前のことかも知れないが、それでも、ではそれを自分自身のビジネスにブレイクダウンできるかどうかといえば、実際それはなかなか難しいのではないかと思う。私だって難しい。自分自身でやってみてから書けば一番いいのであるが、まず理論を作ってから、実行するということもあるので書いてみることにする。
できれば、「デファクト・スタンダード」を皆さんが、理解するだけでなく、使いこなせるようなものにしたいと、志ばかりは高いのであるが、そこまでできなくても、なにかしかのヒントになれば幸いである。是非ご一読いただきたい。
私はいつもWindowsDTPを否定しているが、別にWindowsやビル・ゲイツが嫌いだ、と言うことではなく―もちろん好きではないけどね―理論的に考えるとDTPで「デファクト・スタンダード」ではないWindowsDTPが、MacintoshDTPを覆せるわけはまずありえないからなのである。
もしビル・ゲイツと同じ発想の人間が、日本の印刷業界にいたとしたら、おそらくWindowsDTPは、眼中にないと私は思う。彼はもっと合目的にものごとを考えるに違いない。もし皆さんがビル・ゲイツから学ぶことがあるとすれば、それは彼が作り上げたものではなく、彼の考え方であり、行動様式であるべきだろう。
いまMicrosoftは訴訟の嵐の中にいるが、あれは彼が商売はうまくても、政治的なかけひきはからっきし駄目であるということを証明しているだけのことである。ビル・ゲイツのような金持ちになったら、周囲から嫉まれるのは当然であって、嫉みを受けないように行動することが求められるにも関わらず、成長期の覇権主義という発想を捨てられないからに過ぎない。
多分彼が儲けた金の1割でも慈善事業に投入して、アメリカ社会の底辺から、彼に対する人望を築き上げていけば、おそらく訴訟は広がっていかないだろう。ジョン・ロックフェラーも反トラスト法で訴えられたのは、彼が現役を引退し、慈善事業に力を注いでいた時なのである。もしロックフェラーが儲かっているときに慈善事業に力を入れていれば、スタンダードオイルの分割はなかったかもしれない(結果的には分割したほうがよかったと思うけど)。ビル・ゲイツも慈善事業は引退したときでいいと思っているようだが、そうではなく、儲かっているいまこそすべきなのである。
いま皆さんがビル・ゲイツの方法論を学んでも、すぐに一番になれるわけではないし、世間が嫉むような大金持ちになるわけではない。もちろん「デファクト・スタンダード」はビル・ゲイツだけのものではないし、彼だって他社の「デファクト・スタンダード」には苦しめられているのである。
いずれにしても、ビジネスで儲けるためには「デファクト・スタンダード」を作り上げていくしかない。それはデジタルの世界ではいまからでも遅くない。絶えず新しいスタンダードは市場は受け入れるのである。そのあたりの話を是非皆さんにお伝えしたい。
(1999/07/06up) |
「DTP-Sウィークリーマガジン 第11号(1999/01/07)」掲載
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