PDFで出力するとき、以前のPostScriptファイルやアプリケーションのネイティブファイル形式より印刷事故は減ったのでしょうか。「PostScriptエラー」で戸惑うようなことはなりなりましたが、以前に比べて印刷事故が減ったかどうかを調べることはできません。印刷の出力環境が大きく代わったいま、出力ファイルに求められるものも変わってきているからです。
まだDTPが普及する前、版下と製版で印刷物を製作していた頃は、印刷事故は人為的なミスがほとんどでした。
版下の指定間違い
製版のレタッチミス
校正の不徹底
印刷機のオペレートミス
などです。人間のミスですから、チェックを十全におこなうしか方法はありませんでした。徹底して確認しても確認しても、ミスは発生します。「努力」だけが、ミスを防ぐもっとも有効な方法でした。
DTPになってデジタル化したあと、版下と製版はDTPになりました。工程が減ったことでチェック工程も少なくなりました。しかしデジタル化の進展とともに、フィルムがなくなりCTPになりました。アナログ製版時代は、フィルムでの最終検版こそがミスを防ぐ最後の砦でした。下阪前のフィルム検版で重大な印刷事故を発見して胸をなで下ろした経験を持つ印刷マンは少なからずいるはずです。
ところが、CTPになってフィルム検版はできなくなりました。CTP版での検版? それは難しいでしょう。透明のフィルムを読んで最終稿と合わせることほどは簡単ではないからです。できなくはありませんが、印刷事故を発見する確率は下がるのではないでしょうか。あとはCTP版の自動検版の実用化されるのを待つしかありません。
PDFが普及するとともに、CTPの普及率も高くなりました。いまではCTP出力するのが「常識」となりました。印刷コストを削減するためにはCTPしか選択肢はないからです。
CTP化が進んで出力データに求められることは、できるだけチェックをしなくても出力できるデータです。あるいは、チェックしても素早く確実にチェックできるデータです。少なくとも人間が一つ一つ確認してチェックする工程は無くしていく方向に向かっています。
DTPになって困ったことは、データの指定ミスは制作者が人為的にチェックするしかありませんが、出力データを作成するときのアプリケーション固有の問題や、PDFを作成する方法で発生するトラブルです。
PostScriptファイルやアプリケーションのネイティブファイルの時代でも、デジタル化したため起こる印刷事故はありました。アウトライン化されていないフォントで出力機にインストールされていないフォントや、リンクの切れた画像などです。CMYKなのに特色で指定されていることもよくありました。
PDFになってフォントやリンク切れの印刷事故はほとんど無くなりました。しかし、アプリケーションやPDFの作成方法によっては印刷事故を招くトラブルも発生するようになりしまた。
Illustrator CS/CSに貼り込んだEPS画像の分割水平線、InDesign CS3とCS4で出力時に消失する効果メニューなどはアプリケーション固有のトラブルであり、制作者側に印刷事故の責任を求めることはできないようなものです。それでも、そのようなトラブルを回避して印刷する方法を見つけるしかありません。
本書では主にPDFを出力・印刷する上で問題となるようなさまざまなトラブルを取り上げ、その対応策を考えてみました。EPS画像の分割水平線はAcrobatで削除することで対応できますし、InDesignの消失する効果メニューは先に透明の分割・統合のみを行うことで回避できます。
アプリケーション固有のトラブルやPDF作成方法に起因するトラブルを知っておき、事前にAcrobatなどでチェックすることができれば、印刷事故を少なくできるのではないでしょうか。人間の手と目で何度も何度もチェックしなくても、回避できる印刷事故を簡単に調べることができます。
印刷事故を招くようなトラブルを知っておき、Acrobatのプリフライトで調べたり印刷工程ツールで変換する方法と注意点を知っておけば、入稿から出力・印刷まで効率的に運用できます。印刷事故を招かないPDF出力の実現に本書が役立てば幸いです。(本書あとがきより)
◆あなたがこのテキストで事前に回避できるPDF出力のトラブルです。
|