iPhoneアプリの申請にはリジェクトはつきものです。極端にいえばリジェクトされた経験のない開発者は一人前とはいえないかもしれません。いくつかのアプリを申請すると、必ずリジェクトに遭遇します。
iTunes Connectにアプリを並べるためには、App Storeに申請して承認されなければなりません。承認されるためにはアップルの厳しい審査をパスする必要があります。この厳しい審査の概要を解説したものが
App Store審査ガイドライン
です。一般的には「iPhoneアプリ審査ガイドライン」と通称されています。
App Store審査ガイドラインは、2010年9月に初めて公開されました。22のトピックに分類されて114の審査基準が掲載されました。iOS Dev Centerにある[Resources]というタブをクリックすると「Resources for Apple Developers」のページに「App Review Guidelines」へのリンクがあり、その中から閲覧できます。ただし「App Store Review Guidelines」の閲覧はiOS Developer Programのアカウントが必要です。基本的には登録した開発者のみが閲覧できるようになっています。
*iOS DevのResourcesからリンクをたどると、App Store審査ガイドラインを表示できます。ただし「App Store Review Guidelines」をクリックするときはiOS Developer Programのログインが必要です。
これはApp Store審査ガイドラインが随時変更されるためでしょう。App Store Review Guidelinesの最後には「Living document」とあり、審査ガイドラインは随時変更されると述べられています。そのためか、PDFも用意されていません。最終更新日も記載されていません。有効なのは「App Store Review Guidelines」ページに掲載されている最新版のみです。
審査ガイドラインは2010年に公開された後、2012年4月に追加されています。しかしその後も変更がありました。最初の審査項目に12の追加1つの削除があり、現在(2012年11月末時点)では125項目がリストされています。
開発者が本気で審査ガイドラインを読むことがあるのは、リジェクトされたときでしょう。実際にリジェクトされてみなければ審査ガイドラインに目を通すことはまずありません。少なくともリジェクトされれば目を皿のようにして読むのではないでしょうか。
しかし開発者であれば、そうなる前に審査ガイドラインにおおよそどのようなことが書かれているのかを知っておきたいものです。最低限でもリジェクトされるものを把握しておくべきです。
しかしそうはいっても、審査ガイドラインに目を通せばリジェクトされないアプリを作成できるわけではありません。審査ガイドラインはあくまで審査の目安に過ぎません。ガイドラインに書かれている条項をどのように解釈するのかということはアップルの審査が決めるのです。
たとえば最初の「Introduction」には
We will reject Apps for any content or behavior that we believe is over the line.
と書かれています。一定レベル以下のアプリはリジェクトされるということです。それではその一定以下というのはどういう基準かというと、
"I'll know it when I see it"
という「見ればわかる」という最高裁判事の言葉を引用するだけです。アップルが見て想定レベルに達していないと確信できるものは駄目ということです。いろいろと申し立てをしても「駄目なものは駄目」ということになります。
もう一つの注意点は、「見ればわかる」というアプリのレベルや品質は時代とともにかわっていくということです。それまで認められてきた機能もある日を境に申請が通らなくなってしまうことがよくあります。すでにApp Storeに並んでいるアプリと同等の機能を持たせても、後から申請するとリジェクトされます。その場合はすでに申請をパスしているアプリも、そのままではアップデートできません。
こんにちは、上高地仁です。SakuttoBookというiPhoneの電子書籍アプリ作成ツールを開発・販売しています。SakuttoBookは2011年の1月から販売を行っていますが、電子書籍アプリはリジェクトに悩まされ続けました。SakuttoBookを提供しつつ、リジェクトされないノウハウはあるのかということを考えてきたのです。 |
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とくに電子書籍アプリはApp Storeではあまり歓迎されません。書籍コンテンツはiBookstoreでに申請しなさいというのがアップルの意向だからです。日本ではiBookstoreがローンチしていませんでしたので、少し審査は甘かったと思いますが、この2年あまりの間に私の知る限りSakuttoBookだけでも
2.20 Developers "spamming"リジェクト
リストア未実装リジェクト
10.6 低品質インターフェースリジェクト
2.23 iCloud未対応リジェクト
などいくつもの想定外のリジェクトに足をすくわれました。これらは審査ガイドラインがなかったり、ガイドライン解釈が厳しく変更されたためのリジェクトです。
私自身のアプリもリジェクトされました。そしてその都度対応してきました。リストア機能の未実装などはガイドラインにはありません。アプリ内課金でリストア機能が早急な対応が必要になったので、ガイドラインを追加することもなくリジェクトが始まりました。
*2.20でリジェクトされてアプリ内課金を示唆されるResolution Centerの説明。
アプリ開発者にとって、リジェクトされないノウハウは不可欠です。審査基準が知らないうちに変更される場合は仕方がありませんが、すでに既知のリジェクトは最初に押さえておかないと、何度も申請し直す羽目になります。申請するために審査待ちを繰り返せば、いつまでたってもアプリはApp Storeに並びません。リジェクトされないアプリを申請するには、App Store審査ガイドラインを知悉するしか道はありません。
申請したiPhoneアプリがリジェクトされないようにするには、アプリの構造がアップルが定めた通りである必要があります。アプリの作成での決めごとを記載したものには
Program License Agreement
Apple iOS Human Interface Guidelines
Guidelines for Using Apple Trademarks and Copyrights
iOS Data Storage Guidelines
があります。しかしこれらは技術的な仕様書です。それとは別にアプリやアプリ内コンテンツの品質に関する基準があります。それらは審査ガイドラインに記載されていますが、具体的には解釈の難しいものや、解釈が変わっていくものが少なくありません。開発者はApp Store審査ガイドラインを深読みしてアプリを開発しなければなりません。
アプリの技術的な対応はプログラマの領域ですが、どのようなアプリにするのかということは、コンテンツメーカーの役目です。アプリを作成する場合、どのようなコンテンツにするのかを決める場合、審査ガイドラインの具体的な意味を知る必要があります。
そこで、App Store審査ガイドラインを対訳して一覧できるようにしたものを作成しました。基本は英文なので訳文はあくまでも参考にしか過ぎませんが、訳文を並べることで審査ガイドラインを理解しやすくしました。
さらにそれぞれの項目でブログなどの関連記事を調べて、実際にリジェクトされた結果をコラム的に挿入しました。リジェクトされた実例を知ることでアップルの審査の方向性をより詳しく理解できるでしょう。
*Metadataトピックの解説ページ。対訳だけてなく、実際のリジェクト事例を調べたものも紹介してあります。
アプリの品質はこれからますます高くなっていきます。ハードルはますますあがります。チープで価値のあまりないものや品位のないものはApp Storeに並べたくはないのです。また、音楽、TVコンテンツ、映画はApp Storeではなく、iTunes StoreのApp Store以外のカテゴリー、単なる書籍はiBookstoreで申請を示唆されてアプリとしてはリジェクトされます。
アプリをリジェクトされたとき、再申請でリジェクトされないようにするにはどうすればいいのでしょうか。最短のコースはApp Store審査ガイドラインに戻ることです。ガイドラインに書かれた言葉からアップルの意図した意味を理解することです。アプリ開発でぜひとも手元においてほしいものが、この「App Store審査ガイドライン 対訳解説」です。Xcodeのさまざまな機能を使う前に、ぜひ手元において目を通してください。
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