PDF/Xで運用したい、と言われたらどうしますか?
クライアント:今度から印刷用の入稿データを、PDF/Xで運用したいんだけど、どう?
あなた:PDF/Xですか、そりゃ、できますけど(いままで通りでいいじゃない、どうしてPDF/Xなんだ)─。またどうしてPDF/Xなんですか。
クライアント:印刷物をどこででも印刷できるようにしたいんだ。PDF/Xを送稿して地方で印刷したり、場合によっては海外で印刷することもあるからね。そうなると、PDF/Xしかないだろ。
あなた:えー、地方や海外で印刷するんですか(それは困ったな、売上が減るじゃないか)。
クラインアント:全部じゃないよ。地方や海外で印刷したほうがメリットのある場合もあるし、PDF/Xだったら、印刷機が変わっても、同じ印刷ができるんだろ、違うの。
あなた:まぁ、それはそうですけど(そうなのか、それは知らなかった)。
クライアント:というわけだ。次回からはPDF/Xで入稿してくれ。PDF/X-1aだ。Acrobat
7.0 Proでプリフライトしたもので入稿してくれ。わかった?。
あなた:わ、わかりました(うぅー、どうすればいいんだ)
これからPDF/Xで運用するケースが増えてきます。クライアントに、「明日からPDF/X」だと言われたら、あなたは、どうしますか。
PDF/Xは必要悪です
印刷業界の中で、PDF/Xが話題になることが多くなってきました。というより、最近の印刷業界は話題が少なくてPDF/Xくらいしか取り上げことがなかったりします。
PDF/Xは、印刷用に限定したPDFの規格です。Distillerのジョブオプションだけでは印刷用のPDFを定義できないので、より現実的にその仕様を決めたのです。
従来は印刷用の出力データは、IllustratorのEPSファイルやQuarkXPressのドキュメントファイルで入稿されていました。いままではそれでよかったのですが、インターネットの普及とともに、ネット経由での入稿が増えてきました。ご存じだと思いますが、これを
電子送稿
といいます。
インターネットで電子送稿する場合、メールに添付したり、ブラウザでダウンロードしたり、FTPサーバに転送したりといろいろな方法がありますが、ネットワーク環境やOSの環境に縛られないファイル形式としては、PDFは最適です。
電子送稿でPDFを使うメリットは
マルチページでも1ファイル
圧縮ソフトでのフォルダ圧縮不要
画像はJPEG圧縮するのでファイルサイズが軽い
フォントを埋め込めば出力環境に依存しない
ことなどがあります。
電子送稿するだけであれば、PDF/Xにしなくても、PDFでも十分です。印刷用に最適化されたPDFが作成できれば、PDF/Xでなくてもかまわないのです。
しかし、実際にはDistillerの「プレス品質」で印刷でそのまま使えるPDF化ができるかというと、そうではありません。ドキュメントにRGBカラーが含まれていれば、「プレス品質」でPDFにしても、印刷に適さないPDFになってしまいます。また、フォントも埋め込まれていなければ、別のフォントに差し変わって出力されます。
どのような方法でPDFを作成しようと、印刷するため配慮を十分していれば、出力・印刷できるPDFは作成できます。IllustratorのEPSファイルやQuarkXPressのドキュメントファイルで、それができていれば簡単です。
ところがインターネットの普及とともに、ネット経由での印刷用データのやりとりが増えてくると、多くのトラブルが発生するようになりました。フォントが欠落したり、カラースペースが間違って使われていたり、リンク画像がなかったり、オーバープリント処理が適切でなかったりするものがありました。
そこで、アメリカの広告や新聞関係、印刷や画像の仕様を決める業界団体が集まって、印刷を目的としたPDFのガイドラインを策定したのです。それがPDF/Xです。正確にはPDF/Xが生まれた理由です。
なぜ、電子送稿のために新しい規格が必要なのかは、電子送稿するというのは、データの詳細な打ち合わせができないということです。ロサンジェルスで作成したデータをシカゴで印刷することもあります。そうなると、電話とかメールとかで打ち合わせることになります。日本のように「阿吽の呼吸」で進めるということはできません。
印刷を目的とした詳細な規格、それがPDF/Xです。出力機や印刷機にあわせて打ち合わせすることなく、そのままPDFを出力するための規格です。
しかしPDF/Xにすれば、本当にそのまま出力できるのかというと、まだまだそうではないのです。PDF/Xは印刷用の標準規格であっても、万能ではありません。
たとえば、RGBのブラックをそのままCMYKに変換すると、CMYKのかけ合わせになりますが、PDF/Xではそれでも違反にはなりません。そのCMYKのかけ合わせが0.3ポイントの線だったら、どうしましょう。印刷すると色がにじんでしまってどうにもなりません。
とはいえ、印刷用のPDFとして使うのであれば、様々な出力環境・印刷環境に最適化されたPDFにする方が安全で確実です。PDF/Xにしておく方が、より安心できることは確かなのです。
PDFが印刷用のファイルフォーマットとして普及していくためには、PDF/Xは必要悪です。PDF/Xは「悪」かって。PDF/Xにするには、専用のソフトが必要だし、プリフライトも必要です。面倒でしょう。手間なだけです。
しかし、PDF/Xにすることでより安全に出力・印刷することが可能です。PDFで出力するためには、たとえ手間がかかっても、やむを得ず必要な規格といえるのがPDF/Xなのです。
Acrobat 7.0 Pro のプリフライトはどう変わったのか
PDF/Xはアメリカの印刷や広告関係の団体から提案されました。
● Digital Distribution of Advertising for Publication
● News Paper Association of America
● Committee for Graphic Arts Technical Standards
● TW130 WG2 高精細画像符号化委員会
こういう団体がPDFのガイドラインを決めたのです。おそらく一番最初の「PDF/X-1」の規格でしょう。その後、「PDF/X-1a」や「PDF/X-3」が生まれたのです。PDF/Xというとき、一般的には「PDF/X-1a」を指しています。
しかし、実際の詳細な規格は、Adobe社が決めたものです。PDF/X作成ソフトは、Adobeが提供しているものです。PDF/Xかどうかをチェックするのは、Acrobatのプリフライト機能です。つまり、PDF/Xとして適正かどうかは、Adobeのソフトが決めるわけです。
そうすると、PDF/Xを知るには、AdobeがどのようにしてPDF/Xを作成しているのか、プリフライトしているのかを知るしかありません。PDF/Xの詳細な仕様を知らなくても、PDF/Xは作成できるでしょう。
私は、発売以来、Acrobat 7.0 ProのPDF/Xについていろいろ調べてきました。特に、Acrobat 7.0 ProのプリフライトではPDF/Xはなにを調べているのだろうと、大いに疑問を持っていたのです。
たとえば「PDF/X-1a:2001準拠」では、「59」ものプリフライト規則があります。6.0の「PDF/X-1a準拠」では「36」だったのです。何が変わったのでしょう。どのような規則が追加されたのでしょうか。興味津々です。
PDF/Xのプリフライトが解れば、電子送稿でのトラブルが解ります。というのは、電子送稿でいろいろあった問題点が、プリフライトの中に反映されていると考えられるからです。
電子送稿ではトラブルになるトランスファ関数
たとえば、PDF/Xではトランスファ関数を禁止しています。トランスファ関数は私の知る限り、過去の技術です。むかしのイメージセッタは出力にムラがあり、出力機側で網点濃度を調整できなかったのです。つまり、50%の網点を指定しても、たとえば60%で出力されてしまうわけです。
それでどうしたかというと、出力するデータの網点濃度を変更するわけです。50%濃度が10%濃度が高くなるカーブ情報にあわせて、出力データの網点を間引いてやるわけです。それがPhotoshopにあるトランスファ曲線です。
DTPの黎明期はともかく、いまでは、出力機の調整をデータ側ですることはありません。通常データで指定した網点のまま出力できます。ですから、トランスファ関数はもう必要ありません。
しかし、Photoshopには機能として、トランスファ関数をEPSファイル内に含めることができます。そのままDistillerでトランスファ関数を保存すると、PDF内の画像にトランスファ関数が適用されます。
モニタ表示では、トランスファ関数は適用されません。出力時だけです。モニタと出力では同じ結果にならないわけです。また、QuickDrawやGDIプリンタもモニタ描画データを使いますので、トランスファ関数は適用されません。
本来は使ってはいけないトランスファ関数を含んだPDFで電子送稿されて、トラブルになったことがあると考えられます。電子送稿すると、どんな出力機を使うかわからないので、トランスファ関数を読み込んで出力してしまうこともあるわけです。
もちろん、PDF/Xではモニタ表示とプリンタ出力は同じデータを使うのが原則なので、トランスファ関数は使うべきではありません。ですからDistillerでは作成時に「適用」してトランスファ関数は削除されます。といっても、Distiller以外のソフトでは、含まれてしまう可能はあります。
複雑怪奇なPDF/Xのプリフライトを知ろう!
PDF/Xのプリフライトは実に複雑怪奇です。しかし、プリフライトでどのようなことを調べているのかが解らないと、安心して使えないということはないでしょうか。どのようなことを調べ、どのようなことは調べていないのかを知っておく必要はあるでしょう。
最初に述べたように、CMYKに分解されたRGBブラックはPDF/Xのプリフライトでは、調べることができません。これからPDF/Xで運用するためには、PDF/Xのプリフライトを熟知しておきたいものです。
というわけで、Acrobat 7.0 ProのPDF/Xのプリフライトを徹底的に調べてみました。それで、ここでご紹介する
印刷で使う電子送稿規格PDF/Xの裏の裏が解る本
です。Acrobat 7.0 ProのPDF/Xの「裏の裏」まで解説した唯一のものです。
まず最初に、プリフライト機能を分類して解説しました。私が大きく分類したところ、PDF/X関係のプリフライトは
PDF/X専用情報に関するもの
PDFのバージョンに関するもの
カラースペースに関するもの
画像に関するもの
フォントの埋め込みに関するもの
透明効果に関するもの
埋め込みPostScriptに関するもの
色分解に関するもの
トラッピングに関するもの
ハーフトーンに関するもの
トランスファ関数に関するもの
PDFのサイズに関するもの
出力インテントに関するもの
文書情報に関するもの
に分類できます。この分類に合わせて、PDF/Xのプリフライトを1つ1つ解説していきます。
次に、Acrobat 7.0 ProでのPDF/Xの作成方法を解説します。Distillerを使うと、なんと、DeviceRGBを使ったPDF/Xが作成できます。Distillerのジョブオプションの仕組みをわかりやすく説明していきます。
最後に、PDF/Xで使っているプリフライト条件のウィンドウを一覧できるようにしました。各々のプリフライト規則の構成がプリフライトの詳細編集ウィンドウを開かなくても確認できます。
あなたにも解るPDF/Xの正体とは
「印刷で使う電子送稿規格PDF/Xの裏の裏が解る本」をごらんいただくと、あなたがPDF/Xを使う上で是非知っておきたいことが一目瞭然になります。PDF/Xで運用しようとすると、さまざまな疑問が湧いてきませんか。たとえば、
●PDF/Xのプリフライトで調べていることを知りたい
●7.0で追加されたプリフライト規則にはどのようなものがあるの
●6.0と7.0のPDF/Xがどのように違うのかを知りたい
●プリフライト規則には間違いや矛盾はないのか知りたい
●7.0のPDF/X-3でDeviceRGBを認めたというのは本当?
●「PDF/X-1a:2001(日本)」と「PDF/X-1a:2003(日本)」の違いはなに?
●「PDF/X-1a:2003(日本)」はどうやってDistillerに追加するの?
●「PDF/X-1a:2001(日本)」を作成するときの注意点は?
●DistillerでPDF/Xが作成できない要因はなに?
●プリフライトでPDF/Xを作成するときの注意点は?
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などです。本書では、こういったPDF/Xについての疑問を快刀乱麻のごとく、バッサバッサと解決します。
日本ではPDF/Xを使うケースはまだまだ少ないでしょう。電子送稿自体が発展途上だからです。しかし、電子送稿は増えることはあっても、減ることはありません。これから印刷用のデータをPDFでやりとりする場合、PDF/Xは避けて通るわけにはいかないのです。
開いただけではわからないプリフライトPDF/Xの仕様
あなたがPDF/Xを扱うとき、戸惑ったり、不安を感じたりしないように、
印刷で使う電子送稿規格PDF/Xの裏の裏が解る本
を書きました。これでAcrobat 7.0 ProのPDF/Xはバッチリです。
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